はじめに~外国人の退去強制を考える前提として
日本の憲法22条では,「居住移転の自由」として下記の通り定められています。
日本国憲法第22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
外国人も「人」であるため,当然,人権があります。
ただし,「外国人の入国・在留」については参政権と並び国家主権に係ることであり,国際慣習上も外国人の人権としての入国・在留の自由を「保障」まではされないと解されています。
この点については,日本国内における最高裁判例・通説も,様々な人権の性質を個別に鑑みて外国人も享有主体となる「性質説」が採用されています。
これにより,日本国憲法上の規定については例えば第30条のように「(すべて)国民は,~」と書かれていても外国人に適用されたり,逆に前述の第22条のように「何人も,~」と書かれていても外国人には適用が制限される規定があることになります。
日本国憲法第30条
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
国は外国人を自由に退去強制(強制送還)できるか?
上記の通り,外国人の人権の一部,ここでは「日本に在留する権利」について,「保障」という法律上非常に強い保護をすることまでは要請されていません。
しかし,だからと言って国が自由に退去強制できるのかというと日本が批准する人権条約や日本国憲法が謳う国際協調主義の価値観からして問題があります。
そのため,「外国人」であるという理由だけでその都度担当者個人の価値観や気分で好き勝手に退去強制ができるわけではなく,退去強制ができる原因,すなわち「退去強制事由」を国会の承認を経た法律において限定列挙し,かつ,退去強制事由へ該当するか否かの事実認定をする「退去強制手続」を経て,その外国人の国外への退去を命じるか決めることができるようになっています。
なお,マスコミやネットでは”強制退去”や”強制送還”という言葉が使われますが,正しい用語は「退去強制」です。
退去強制事由は入管法の24条に定められています。
退去強制事由の一覧(入管法24条)
退去強制事由を規定する入管法第24条はとても長く,一目では判読し難い形式です。
大まかに分類をすると下記の通りとなります。
入管法に違反した者等
- いわゆる不法入国者(1号)
- いわゆる不法上陸者(2号)
- 在留資格を取り消された人(2号の2)
- 入管申請において偽造変造文書を作成・使用・他の人に提供した人(3号)
- 他の人に不法就労をさせたりした人(3号の4)
- 在留カードや外国人登録証明書などを偽造したり、他の人に偽造したものを使用させた人(3号の5)
- 資格外活動許可を受けないと働けない人が無許可で働いた人(人身取引の被害者は除く)(4号イ)
- いわゆるオーバーステイの人(4号ロ,6号,6号の2,7号)
- 集団密航を手引きした者
- 資格外活動違反で禁錮以上の刑に処せられた人(4号へ)
- 他の人に不法入国・不法上陸を勧めたり、協力したり、手伝った人(4号ル)
- 役所に虚偽の届け出をしたり、在留カードの受け取りや提示義務に反して懲役に処せられた人
- 条件付きで仮上陸許可を受けて、条件に違反、逃亡、理由なく呼び出しに応じなかった人(5号)
- 日本の空港や海港で上陸を拒否され、退去命令をうけたが、理由なくそれに従わなかった人(5号の2)
- 船舶などで日本にきて、一時的な寄港地として日本への上陸が特例で認められている人が期間経過後もいる場合
- 船舶などの乗員で数次乗員上陸許可を受けていたが、取り消された人
- 外国籍への帰化や日本で生まれた外国籍の子どもで在留資格の取得手続きをしていない人
- 出国命令制度を利用して出国命令を受けたが、指定された期限まで出国しなかった人(8号)
- 出国命令制度の利用が認められたが、指定された帰国する期限日までに条件に違反して出国命令を取り消された人(9号)
- 難民認定を受け、適法に滞在していたが、後に虚偽の手段で認定を受けたことが発覚し、難民認定が取り消された人(10号)
刑事事件で有罪判決を受けた者
- パスポートに関する旅券法23条に違反して罰せられた人(執行猶予を受けた場合も含む)(4号二)
- 資格外活動違反で懲役刑を受けた人(4号ホ)
- 長期3年を超える懲役又は禁錮に処せられた少年(4号ト)
- 薬物関連の法律に違反し、有罪判決を受けた人(4号チ)
- その他1年を超える実刑判決確定者(執行猶予の言い渡しを受けた人は除く)(4号リ)
- 就労系・活動系の在留資格(入管法別表第一)で在留する人で、特に悪質性高いとされる特定の刑法などに違反した人(4号の2)
有罪判決を受けていないが違反事実が認められた者
- 人身取引等をした人、また他の人に人身売買をすることをそそのかしたり、手伝った人(4号ハ)
- 売春関連業務に従事した人(人身売買の被害者は除く)(4号ヌ)
テロリスト該当者
- テロ行為などを行うおそれがあると認定された人(3号の2)
- 国際約束により日本への入国を防止すべきとされている者(3号の3)
国益を害する者
- 日本政府などを暴力で破壊することを企てたり主張したり、そのような組織に所属している人(4号オ,ワ,カ)
- 日本の利益または公安を害する行為を行ったと法務大臣が認定する人(4号ヨ)
- 過去に国際的な競技大会や会議等に関連して暴力行為などを行った人(4号の3)
退去強制事由に該当すると・・・
自ら出頭した場合,路上での警察官による職務質問,裁判所で有罪判決が言い渡された直後,入国管理局への申請における審査の過程,入国管理局の独自の調査等を端緒にして上記に列記した退去強制事由に該当する恐れがあると判断された人は、まず初めに入国管理局の入国警備官による取り調べがされます。
その後、入管での退去強制手続きの第一段階として,入国警備官により該当するものと嫌疑があるとされた場合は収容施設へ入れられ、続いて入国審査官による違反調査を受けます。
入国警備官の違反調査の結果,退去強制事由に該当しないと判断されれば身柄が解放されます。
入国警備官の判断の結果,退去強制事由に該当すると認められた場合でその判断に服する場合は退去強制となります。
しかし,入国警備官の判断に異議がある場合,または,判断の根拠となる事実に相違はないが在留を希望する場合は退去強制を受け入れず,第二段階として入国審査官による違反審査にて再度,間違いがないか判断がなされます。
さらに,入国審査官の判断にも異議がある場合,または,在留特別許可を希望する場合は第三段階として異議の申し立てを行い,法務大臣の裁決がなされます。
退去強制手続きのプロセスについてはこちらをご覧ください。
退去強制事由に該当することが確定してしまった場合
退去強制手続きは,それまで日本で暮らしていた外国人の
なお,退去強制事由に該当する者の,日本人等の配偶者や子どもがいる場合などの人道的な理由により引き続き日本での在留を希望する場合は法務大臣に在留特別許可を願出ます。
退去強制事由に該当しない場合でも・・・
また,例えば、暴行の罪(刑法208条)を犯した人が懲役10か月の有罪判決(1年以下の懲役)を言い渡されたのであれば退去強制事由には該当しないため、有罪判決と同時に入管へ移送されて即座に退去強制手続きが取られることはありません。
しかし、ビザの更新や変更をする段階においては、過去の在留状況も審査の対象になるため、「過去の在留状況が不良」としてそこで不利益な取り扱いを受けることがあります。
この点については,違反を起こしてしまってから次の更新申請について特に違反に至った経緯,現在の状況,今後の対応などをよく考えて慎重に申請を行うことが必要です。
過去の違反歴を隠して更新申請をし,不許可にされるという事例も多くあるので注意をしましょう。
実際に,当事務所では過去に有罪判決となったものの退去強制事由には該当しないため退去強制手続は執られなかったもののビザの更新が迫っていた事案で当事務所で詳しい経緯などについて説明を付して申請を行い許可がされたものの,同じ事件で有罪判決を受けた関係者の更新を別の行政書士が過去の違反歴の記載をせずに申請してそちらは不許可とされたこともありました。
当事務所できること
当事務所にご相談をいただければ、在留に関する今後の見込み、在留申請のサポートをさせていただきます。
現在、すでに警察による取り調べであったり、刑事告訴をされて裁判中で退去強制事由に該当しそうな場合、または、すでに判決が出て退去強制事由等に該当してしまった場合については、最悪の事態も想定してなるべく早くご相談いただくことをお勧めします。
警察署内部の留置施設、拘置所などに収容されている場合も出張でのご相談、入管へのビザ申請代行に対応いたします。
なお、当事務所は弁護士事務所ではないため、刑事事件における有罪・無罪の見込みの回答、刑事告訴された場合の弁護などはできません。
国選の弁護士の先生の場合、必ずしもすべての人が入管手続きについて熟知しているわけではないので、協力しながら在留申請部分について対応することも可能です。
また、経済的に余力がある方で外国人刑事事件にも積極的に対応してくれる私選の弁護士をお探しの方には無償でご紹介いたします。
執筆者
- 特定行政書士、張国際法務行政書士事務所代表
- 1979年(昭和54年)生、東京都渋谷区出身。10代後半は南米のアルゼンチンに単身在住。
帰国後は在住外国人を支援するNPO団体にて通訳・翻訳コーディネーター&スペイン語通訳として勤務。
ビザに限らず広く外国人に関わる相談をライフワークとしています。
詳細なプロフィールはこちらをご参照ください。
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