養子縁組とは?
法律上、母親から生まれた子どもは当然に親子関係が生じます。また、その母親と結婚している父親、父母が未婚でも子どもを認知しているような場合も親子関係が生じます。(実親子関係といいます)
一方、養子縁組とは、生物学的な親子関係などに依拠せず、法律上の親子関係を成立させる手続きです。(養親子関係といいます)
養子縁組をする理由は様々ですが、下記のような理由が多いかと思われます。
- 再婚相手の子どもを養子にする場合
- 身寄りのない子どもを養子にする場合
- 相続税などの対策のために養子縁組する場合
- 旧来的な「家を継ぐ」という価値観で娘婿を養子にする場合
養子縁組について定めた日本の法律
日本人同士で養子縁組をする場合、日本の民法に規定される条項が適用されます。
例えば、日本の民法では養子縁組の要件として下記のような規定を設けています。
(養親となる者の年齢)
第792条 成年に達した者は、養子をすることができる。
まず、日本人が養親となる場合、成年、つまり20歳以上であることが必要になります。
(2017年5月現在、成人年齢を18歳に引き下げる法案が検討されています。)
(尊属又は年長者を養子とすることの禁止)
第793条 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。
自分の両親、祖父母等の尊属、親族ではなくても年上の人を養子にすることはできません。
(配偶者のある者が未成年者を養子とする縁組)
第795条 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。
さらに、結婚している人が養親として新たに養子を迎え入れる場合、夫婦一緒に養子縁組をすることが求められます。
但し書きでは、結婚相手が過去に別の人との間に設けた連れ子を養子にする場合、実の親とは親子関係はあるので、片方の新しい親となる人との養子縁組手続で足ります。
養子縁組手続きをする役所
養子縁組の要件をクリアした場合、どこで手続きをするのかは養子が成人している場合は民法799条、養子が未成年の場合は民法798条でそれぞれ規定しています。
(婚姻の規定の準用)
第799条 第738条及び第739条の規定は、縁組について準用する。
民法799条では、養子縁組の届出先については婚姻の手続きに関する739条を準用しています。
(婚姻の届出)
第739条 婚姻は、戸籍法(昭和22年法律第224号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2 (略)
その結果、養子が成人している場合は、戸籍法で定められる婚姻届の提出と同じく、養親・養子どちらかの本籍地、または所在地である市区町村役場の戸籍課などの窓口などで手続きをします。
(未成年者を養子とする縁組)
第798条 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。
しかし、未成年者を養子にする場合は、例外として家庭裁判所でも手続きをすることになります。
さらにその例外の例外として、自分の孫、再婚相手の子どもなどを養子とする場合は市区町村役場だけで手続きができます。
養子縁組の当事者に外国人がいる場合
以上の内容は一般的な日本人同士での養子縁組をする場合の民法の規定の一部です。
しかし、当事者である養親または養子のいずれかに外国籍の人がいる場合、例えそれら当事者が日本で生まれ、日本で暮らしていても、養子縁組の成立の可否が外国の法律で判断されることになります。
これは、「法の適用に関する通則法」という法律によるためです。
法の適用に関する通則法
(養子縁組)
第三十一条 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
2 養子とその実方の血族との親族関係の終了及び離縁は、前項前段の規定により適用すべき法による。
外国の法律で判断する国際養子縁組
法の適用に関する通則法31条を簡単に説明すると、まず、これから養親となる人の国籍の法律に規定されている、養子縁組を成立させるために必要なすべての要件をクリアしていることが原則となります。
これから親になろうとする人が日本国籍であれば原則として日本の民法に書かれている養子縁組成立のための規定はすべて適用されます。
反対に親になろうとする人が外国籍のみであれば外国の法律が適用されます。
ちなみに、これから養父になる人が米国人、養母になる人が日本人など養親で国籍が異なる場合、養父は米国法での要件、養母は日本法での要件をそれぞれクリアする必要があります。
セーフガード条項(保護要件)について
さらに、通則法32条の「この場合において、~」以下では、養子となる人の国籍国の養子縁組を規定する法律*1において、「本人や第三者公的機関の同意等」について規定がある場合はこの規定も養親の国籍国の法律と合わせてクリアする必要があります。(重畳適用)
*1 養子縁組について規定されている法律は、日本では「民法」ですが、諸外国において必ずしも「民法」(英Civil code、西Código civil)という名前の法典の中で規定されているわけではありません。例えば、中国では”入養法”という名称の法律で養子縁組について規定しています。)
そのため、養子の国籍国の法律において「誰かの同意や承諾、公的機関の許可」の必要の有無について確認する必要があり、結局、養親の国籍国の法律だけではなく、養子の国籍国の法律についても検討する必要があります。
これは養子縁組において社会経験や判断能力が乏しい未成年者が養子となることが多いために定められた規定であり、講学上セーフガード条項、保護要件といいます。
まとめると、養親となる人の国籍国の法律はすべて適用され、それに追加して子の国籍国の法律に「第三者や公的機関の同意等」を必要とする規定があれば、その部分だけ併せて必要要件となります。
第三者の同意とは
多くは養子となる人の実親の同意を求めるケースがあります。
その他に、日本人と結婚されている方も比較的多いフィリピン人女性の連れ子など、よくあるケースとして日本人養父とフィリピン人養子との養子縁組がありますが、フィリピン法では養子縁組をするにあたり、養親の嫡出子の同意が求められます。
この要件が養子縁組をするにあたり、保護要件に該当するか問題になりますが、この規定は養子の保護を目的とした理由ではなく保護要件に該当しないとする学説、該当するという学説があります。一方でフィリピン法のこの規定について、養親の嫡出子の同意が得られなかったからといって養子縁組の成立を否定することは日本の公序に反するとした裁判例(水戸家裁土浦支部平成11年2月15日)もあります。(さらにこの判例に対して批判的な学説もあり判断が難しいところです)
公的機関の許可とは
未成年者等を養子にする場合、日本の民法では家庭裁判所の許可が求められますが、再婚相手の連れ子を養子にする場合等は通常の養子縁組どおり市区町村の役所での手続きで足りるのは上述のとおりです。
諸外国でも養子縁組をする際に裁判所を関与させる規定を設けた国が多くあります。
この場合、日本法または外国法の適用の結果、裁判所による許可等が必要となった場合、どこの国の裁判所で手続きをするのかが問題になります。
この点については明文の規定はなく、条理により判断されますが、一般的に養親、養子の住所が日本にあるような場合は日本の裁判所でも手続きを行います。
日本で養子縁組の審判手続きを行うのは「家庭裁判所」となり、手続きは「養子縁組の審判」になります。
また、日本では場合によっては司法機関である裁判所の関与を定めていますが、国によっては裁判所ではなく、福祉関係の行政機関の許可を求めたりする国もあります。
このような場合、日本の行政機関では養子縁組の許可を行っておらず、かといって家庭裁判所の審判では代替できないとする判例(大阪地裁堺支部昭和37年5月17日)もあり、該当する場合は市区町村(または法務局)の戸籍担当課、家庭裁判所などに相談されることをおすすめします。
養子と在留資格(ビザ)について
日本で暮らす日本人または外国人が、外国籍の子どもを養子とした場合、その子どもが日本で一緒に暮らすための在留資格(ビザ)が得られるか否かはとても重要な問題です。
養子に認められる在留資格についてはこちらをご参照ください。
執筆者
- 特定行政書士、張国際法務行政書士事務所代表
- 1979年(昭和54年)生、東京都渋谷区出身。10代後半は南米のアルゼンチンに単身在住。
帰国後は在住外国人を支援するNPO団体にて通訳・翻訳コーディネーター&スペイン語通訳として勤務。
ビザに限らず広く外国人に関わる相談をライフワークとしています。
詳細なプロフィールはこちらをご参照ください。
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