スポーツ選手のビザについて
日本でプレイするプロスポーツ選手には在留資格「興行」が認められます。
一方、プロ化がされていないスポーツの選手や実業団に所属する選手などのアマチュアスポーツについては要件を満たせば在留資格「特定活動」が許可されます。
また、スポーツに従事する監督、コーチ、トレーナー、それらの家族についても日本への在留が認められます。
プロとアマチュアスポーツの違い
一般的に競技レベルの高低に着目し、レベルが高い方が「プロ」、プロに比べてレベルが低い方が「アマチュア」と理解されるものと思われます。
また、入管実務者の間では、プロスポーツ=在留資格「興行」、アマチュアスポーツ=在留資格「特定活動」が決定されるものと理解する人も多くいるでしょう。
しかし、上記の「プロ」、「アマ」概念に照らして考えた場合、必ずしも入管の判断においてはレベルの高い競技=「興行」、レベルの低い競技=「特定活動」というわけではありません。
選手が所属するチームがどのような位置づけでチーム運営を行っているのか、またその中で選手がどのような契約を結んでいるのかによりプロスポーツ選手としての「興行」なのか、アマチュアスポーツ選手としての「特定活動」なのか判断され、それぞれの許可要件も異なってきます。
一般的に、所属チーム(またはリーグなどの団体)が興行収入(チケット収入)、スポンサー収入などにより収益を得る球団やクラブチームなどの団体と契約して報酬を受ける場合はプロとして「興行」が該当します。
一方、興行収入では採算が合わず、特定企業の広告塔としての広報的な側面が強い実業団のような形で報酬を受ける場合はアマチュアとしての「特定活動」に該当します。
日本のスポーツ業界全体を見渡し、プロ化しているスポーツの方が少数であり、それ以外の競技でも世界的に見て決して競技レベルが低いわけではないものでも上記の基準にて照らし「アマチュア」=「特定活動」として判断されます。
例えば、オリンピックの競技種目の多くはプロ化していないことも多いですが、オリンピック優勝選手であっても、企業の広報的な色彩の強い実業団に所属してプレイをする人も多くいることを考えれば、アマチュア=レベルが低いというわけではないのはご理解いただけるでしょう。
在留資格「興行」が認められた事例
入管内部の審査マニュアルによると、団体競技・個人競技それぞれのプロスポーツとして「興行」が付与されたケースとして下記の通り例示されています。
- プロ野球12球団の1軍、2軍登録選手
- 地域独立リーグに所属する野球選手
- Jリーグ(J1およびJ2)に所属するサッカー選手
- BJリーグ(バスケットボール)
- アジアアイスホッケーリーグ加盟のうちプロチーム
- プロボクシング選手
- 総合格闘技選手
- プロレス選手
- 大相撲力士
上記に該当する場合でも興行性が認められなかったり、選手との契約内容によっては「興行」には該当しない可能性はあります。
Jリーグの下部リーグで、アマチュアリーグと解されるJFL(ジャパンフットボールリーグ)の場合であっても興行収入(チケット収入、スポンサー収入)で運営されているチームについては「興行」に該当するとしています。
その一方で、同じJFLのチームであっても企業の広告等としての色彩が強い実業団チームなどは原則として「特定活動」が該当するとしています。
なお、2014年にJ2とJFLの間に発足したJ3*2については本記事執筆時点(2016年12月)における入管内部資料には記載がなく、著者としてはJFL同様に選手ごとに個別に判断されるものと考えます。
また、同じく執筆時点において、資料中に「フットサルにはFCリーグ*1の組織があり、現在プロリーグとしての評価できておらず、」との表記があり、原則として「興行」には該当しません。しかし、続いて「一部チームの選手については「興行」の在留資格が認められているものがある」とする記述がありますが、おそらくFリーグ内にてプロ化している「名古屋オーシャンズ」の所属選手などを指すものと思われます。
*1原文ママ。Fリーグの誤記載と思われる。
*2サッカーのJ3については、Jリーグの規則により「3人以上のプロ選手がいること」などの要件があるため、プロ契約を結ぶ外国人選手については「興行」、その他の外国人選手については「特定活動」と判断されるものと思われます。
報酬の要件
お金を貰う選手=「興行」、お金を貰わない選手=「特定活動」との理解をされがちですが、正しくは「興行」も「特定活動」も報酬を受ける選手等でなければ許可されません。
「興行」については、決まった報酬額の要件はなく、「日本人が受けるのと同等以上の報酬を受けること」という要件が課されています。
プロスポーツ選手において何をもって「日本人が受けるのと同等以上の報酬」なのか、判別が難しいところですが、その選手のキャリア、年齢、実績、そのスポーツにおける前例などを総合的に勘案して不当に低くなければ特に問題はないでしょう。
一方、アマチュアスポーツ選手の「特定活動」については、月額で25万円以上という定額の報酬額要件があります。
選手等の経歴要件
「興行」の場合、選手の経歴などについては特段の要件はありません。
このため、海外のユース(育成組織)上がりのプロや代表チーム未経験選手であっても許可されえます。
一方、「特定活動」での選手の経歴としては、オリンピック、世界選手権その他の国際的な競技会に出場した経歴を有することが必要です。
全世界の国々が参加するワールドカップのような大規模大会が該当することはもちろん、「その他の国際的な競技会」として、アジア大会のような特定の大陸・地方の国に出場機会のある大会が含まれます。
後述のスポーツ指導者の「技能」ビザにおいても「国際的な競技会への出場歴」という似た文言がありますが、スポーツ指導者の「技能」では「二国間で行われる競技大会、又は特定国間の国際親善試合のみの出場経験」ではこの要件を満たさないものと狭く解釈され運用されていますが、アマチュアスポーツ選手の「特定活動」では必ずしも同一の基準ではなく、多少は広く解釈するものとしています。
特定活動告示
六 オリンピック大会、世界選手権大会その他の国際的な競技会に出場したことがある者で日本の
アマチュアスポーツの振興及び水準の向上等のために月額二十五万円以上の報酬を受けること
として本邦の公私の機関に雇用されたものが、その機関のために行うアマチュアスポーツの選手
としての活動
スポーツ選手等の家族のビザ
日本でプレイする選手等は単身赴任してくることもありますが、家族揃って来日(または家族は遅れて来日)することもあるでしょう。
この場合、在留資格「興行」、「技能」が認められた選手等の家族には在留資格「家族滞在」が認められます。
一方、在留資格「特定活動」が認められた選手の家族には、選手と同じく在留資格「特定活動」が認められます。
スポーツ選手の配偶者(夫、又は妻)のビザ
法律上の結婚をしていることが求められ、事実婚(内縁関係)では認められません。
スポーツ選手の子どものビザ
実子・養子の別、年齢による制限などはありません。
ただし、法律上の親子関係のないが実質的に扶養する再婚相手の連れ子などについてはご相談ください、
スポーツ選手等の家族の就労について
スポーツ選手等の家族は原則として就労することはできませんが、別に「資格外活動許可申請」をすれば就労は可能になります。
ただし、本来の目的があくまで選手の扶養を受け日常的な活動を行うことであるため、扶養を受ける範囲を超えて働いたり、自分で事業を行うことはできないと解されます。
なお、配偶者が日本語学校等へ通学したり、学齢期の子どもが公立学校に通学するなど報酬を得ない活動を行うことは一般的に問題ありません。
スポーツ選手以外の監督、コーチ、トレーナのビザ
プロスポーツなどにおいて「出演者が興行を行うために必要不可欠な補助者としての活動」を行う人も在留資格「興行」に該当し、プロスポーツの監督やコーチ、スポーツ選手のトレーナー、ゴルフの専属キャディーなども「興行」に該当します。
一方、アマチュアスポーツの指導者については、在留資格「技能」が認められます。(プロスポーツの監督などは「興行」、「技能」両方に該当しえます。)
「技能」の指導者の場合は、下記のいずれかに該当する必要があります、
- スポーツ指導経験、外国でのスポーツ指導科目専攻期間がトータルで3年以上ある
- プロスポーツ選手として報酬を受けていたことがある
- オリンピック大会、世界選手権大会などの競技会に出場したことがある
3つ目の「オリッピック大会、世界選手権大会などの競技会」については狭く解釈されており、アジア大会などの大陸・地域までは含まれるものの、二国間・特定国間の競技大会・親善試合のみの出場歴では要件を満たさないものとして解釈されています。
なお、「技能」の指導者に場合は、競技スポーツだけではなく、スキー場での指導など生涯スポーツの指導者も該当します。
在留資格「技能」の上陸基準省令
八 スポーツの指導に係る技能について三年以上の実務経験(外国の教育機関において当該スポーツの指導に係る科目を専攻した期間及び報酬を受けて当該スポーツに従事していた期間を含む。)を有する者若しくはこれに準ずる者として法務大臣が告示をもって定める者で、当該技能を要する業務に従事するもの又はスポーツの選手としてオリンピック大会、世界選手権大会その他の国際的な競技会に出場したことがある者で、当該スポーツの指導に係る技能を要する業務に従事するもの
報酬が発生しない試合や練習等に参加する場合
プロスポーツの「興行」、アマチュアスポーツの「特定活動」、どちらともに契約を結び報酬を得ることが条件になっています。
特にユース年代に多いような報酬が発生しないような親善試合、練習試合への出場、プロチームで練習生になったり、トライアルを受けるなどの理由で短期間来日する場合は、最大90日間の在留が可能な在留資格「短期滞在」での来日が可能です。
ただし、「短期滞在」で来日をする場合は報酬を得る活動はできず、申請においても特に注意して審査されるポイントでもあります。
このため、上陸審査の際に入国審査官に疑義を持たれると飛行機に乗って空港まで来たのに上陸拒否になり、入国が認められずにそのまま帰国させられるという事態にもなりかねないため、慎重に判断するべきでしょう。
また、「短期滞在」で来日し、在留期限前に帰国して再度来日する場合も期間や回数によっては入国拒否される事例もありますので注意が必要です。
幼少期に来日、又は日本で生まれ育った外国人選手について
日本人の子どもや配偶者に認められる「日本人の配偶者等」、日系人や日本人の孫などの「定住者」、親の仕事に伴い来日したが永住許可を受けた「永住者」、在日コリアンなどの「特別永住者」など、これらの在留資格を有する外国人については就労の制限がないため、在留資格の変更手続きを経ずにそのまま報酬を得て選手として活動して差し支えありません。
スポーツ選手と上陸拒否
上記の要件を満たし、これから来日する選手を呼び寄せようとする場合でも、懲役判決を受けたり、薬物犯としての前歴がある場合は入管法5条に規定された「上陸拒否事由」に該当する場合は来日できない事があります。
有名な例としてはアルゼンチンのマラドーナ選手などはこの規定により上陸拒否事由に該当し、入国ができませんでした。
しかし、一定年数を経過したことにより「上陸特別許可」を受け、特別に入国が認められました。
当事務所でできること
当事務所にご依頼いただければ、許可の見込みの判断、書類の収集・作成、入管への申請代行について迅速に対応をさせていただきます。
また、当事務所の代表の張は10代の頃にアルゼンチンのクラブチームにいたため、スペイン語での対応も可能です。
執筆者
- 特定行政書士、張国際法務行政書士事務所代表
- 1979年(昭和54年)生、東京都渋谷区出身。10代後半は南米のアルゼンチンに単身在住。
帰国後は在住外国人を支援するNPO団体にて通訳・翻訳コーディネーター&スペイン語通訳として勤務。
ビザに限らず広く外国人に関わる相談をライフワークとしています。
詳細なプロフィールはこちらをご参照ください。
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